あらためて読んでみると、異様な文章であるのを感じる。なんというか、きわめて抽象的なのである。具体的な情景が全然出てこない。
最初の章を映像化したら、いすに座って黙っている男がいるだけの映像になるだろう。しばらくすると犬にぶつかって転ぶ話がでてくるのだが、これもなんだか異様である。犬にぶつかるってそうあることではないし、犬にぶつかったからって転ぶこともあまりない。よっぽど巨大で凶暴な犬なのだろうか。
犬の件はともかくとして、抽象的で同じようなことをごにょごにょ言うというのは、欧米語、特にフランス語の特徴なのではないかと思った。
カミュの短編にも、やたらに饒舌な話があった。カフカを読んだときも抽象的だとは感じたが、そんなにごにょごにょはしていなかった。