2013/03/30

ポオ 「構成の原理」「詩の原理」

ポオというと日本人にとっては詩人というよりも推理(恐怖)小説作家、江戸川乱歩が名前をつけた由来の人というイメージが強いのではないだろうか。私もその一人で、子供の頃少年探偵団シリーズを読んで、その元祖みたいな人だとしてポオを知った。

だがボードレールとかランボーを知ったときにそれらの詩人に大きな影響を与えたとして詩人としてのポーを知った。

最近ちょっとランボーを読んでみているのだが、私は「詩」がいまひとつよくわからない。歌謡曲とかの「歌詞」も、歌うからよいのであって、詩だけで完結する作品というのはなかなかおめにかかれない。

私が読んだ主な詩集は、宮澤賢治と萩原朔太郎で、彼らの詩であればいくつかいいなと思って書き写したり暗唱したりしたこともある。

詩と言えば、シェークスピア、ゲーテ、バイロン、ボードレールなど海外の古典というか伝説みたいな詩人達がいるが、翻訳を読んでもよくわからない。かと言って原文を読んでももっとわからない。

ボードレールはけっこう読んだのだが全部翻訳である。なんとなくボードレールとはどういう男なのかはわかっているつもりだが、特に彼の詩についてはその真価の半分もわかっていないと思っている。


私は詩に対して近寄りがたい思いを持っている。詩とは神秘的なもので、天才にしかかけないものであり、文学の究極が詩であるというくらい、偉大なものだと思っている。だが、それがわからない。小説ならヘタクソでもなんとか書けるかもしれないと思うが、詩は無理だ。

だから、詩とは何か、ということがその秘密が知りたくてしょうがない。

というわけで、ポオが詩について書いたものを読んでみた。創元推理文庫におさめられているものである。

書いてあることは特に目新しかったり感心するようなことはなかった。少なくとも、自分が詩を書くヒントになるようなものはなかった。

「構成の原理」では、自分の The Raven を例にとって、どのように詩を書いたかが語られている。ひらめきとかインスピレーションといったものによって筆にまかせて書いたのではなく、いかに読者をひきつけるかを周到に計算して理詰めで組み立てたと言うことが語られる。 nevermore という単語を選んだのにも、raven を登場させたのにも、約100行という行数にも理由があってのことだという。いろんな芸術家の言うことを聞いていると、常識的なこと、論理的なことを語る人が多い。有名で大家と呼ばれる人ほど、「センス」とか「感覚」というものに頼っていないという印象を受ける。


2013/03/23

西村賢太 「暗渠の宿」

つづいて、「暗渠の宿」という作品を読んだ。 

女と同棲する話だが、やっぱり藤沢清造の話が出てくる。 というか、それが話の中心になっている。部屋の中に、墓標をいれるガラスケースまで作ってしまう。

これほどまでに、一人の人を尊敬できるものだろうか。 これはもはや「学者」ではないか。

2013/03/17

西村賢太 「けがれなき酒のへど」

西村賢太は昭和42年生まれで、私とほぼ同い年である。

芥川賞をとったときに、中卒であるとか風俗がどうだとかいうことばかりがクローズアップされて、そんなことが売りの作家なんかと思っていたが、ほとぼりが冷めてyoutubeで彼が出演したテレビ番組を見ていてその人柄に魅力を感じて、読んでみたいなと思った。

「苦役列車」は見つからなかったが、新潮文庫のコーナーに何冊か彼の作品があった。「暗渠の宿」というタイトルのついた文庫の中に収められていたのが、「けがれなき酒のへど」である。

これは、風俗では満足できない男が本物の恋愛にあこがれそれを実現しかけて裏切られる話であるが、これで終わりかな、と思わせたところで彼が傾倒している藤沢清造という作家についての話に切り替わる。

この文庫は駅の売店で買って電車の中で読み、自宅の最寄り駅に着いたが読み終わらないので居酒屋へ入って読み終えた。

人目もはばからずにニ、三度噴出した。

俗に言う「ダメ人間」を描いている。

ダメ人間を描いたと言えば、私が知っているのは太宰治と町田康であるが、なぜか彼の文体には三島由紀夫的なものを感じた。

私の乏しい読書体験の中から、今回初めて読んだ西村賢太の文体と似ている作家を探すと、三島由紀夫になる。


主人公が風俗嬢に対して抱く勝手な幻想と、それを裏切る女、その描写は思い込みが激しく、自分が勝手に理想化してそれにそぐわない現実を罵倒する感じが三島に似ている。

それが本気なのかふざけているのかわからないところも似ている。


ダメ人間を描いているという点で似ていそうな町田康とは、まったく異なる。

町田の方が、さらっとしている。現代的である。一般受けするだろう。

西村の描き方は、自虐的とか露悪的とかいうのではなく、なんというか、超現実的な感じがする。

主人公をだます風俗嬢像は、非現実的で、想像の産物感が強い。



そういう、想像力過剰なところが、三島由紀夫っぽいと感じるところである。

2013/03/16

Bob Dylan "Christmas in the heart"

Bob Dylanが、数年前に出したアルバム。 クリスマスソングの定番がおさめられている。 

日本人でも皆知っているような曲ばかりである。 子供でも知っているような曲もある。

 多くのディランファンがこのアルバムの発表に戸惑ったことだろう。 「まあ、たまにはこういうのもいいか。チャリティーだし。」という風に片付けた人が多かっただろう。

 しかし私はこのアルバムをそんなふうに、「遊び」で出したアルバムというふうには片付けられなかった。 最近のディランは声があまりに汚く、ほとんどメロディーというものを無視していたが、 このアルバムでは久しぶりに彼がメロディーを歌っているのを聴くことができた。

 それから、若い女性、男性のコーラスと競演している。 これも普段はしない事だが、非常によく調和していた。

 ボブディランのアルバムのなかで最高傑作を一枚選べというのは愚問であるが、 私はこのアルバムを選ぶことがそれに対する唯一のまともな答えではないかと思う。