塚本監督を知ったのは「鉄男」を観たときだ。
2も見たかな。
映像としては斬新だなとは思ったが、一本の映画としてはそんなにいいものだとは思わなかった。
ふーん、なるほどね、という感じだ。
彼はその後も何本か映画を撮って、大々的に宣伝はされず小規模に上映されるが、ちょっとした賞をとったりして、すっかり大御所になった感がある。
「野火」を撮ったときいたとき、もしかしてつまらない「反戦映画」を撮るようになってしまったのかと心配したが、まったくの杞憂だった。
大岡昇平の野火という小説があることは知っていたが、読もうという気にはならなかった。
「戦争」をテーマにしている時点で、反戦を主張しているに違いないと思ったからだ。
序盤で、東南アジアのどこか、原作ではフィリピンのようだがおそらくそのあたり、のジャングルの美しい緑のなかを薄汚い監督自身が演じる主人公の兵隊がうろつくシーンが続く。
冒頭で上官に怒られて病院へ行ったり来たりするところなどは、クローズアップが多くて、
特に主人公の顔が画面真ん中にドーンと映されることが多くて、少し煩わしく感じた。
だんだん眠くなってきた。
塚本監督だし、けっこう話題になっているのにこの上映規模の小ささからすると残酷だったりグロテスクだったりするシーンがあるのだろうとは思っていたが、
そういうものがあるどころか、ずばり残酷でグロテスクなそのものがテーマだった。
そしてそれは「戦争」ではない。
もちろん、戦争を描いているし、戦争があったからあのような状況があって、人間も狂ったというか、そういう状況に対応するには狂ったとしか言えないような行動をとらざるを得なかったのだろう。
何のシーンだったか忘れたが、ちょっとドキっとするシーンで目がさめ、後半はのめりこんだ。
戦争の話はいろいろ聞いて、残酷なこと、狂気、人が人でなくなることなどがあったということは想像もできるが、この映画で表現されたものはあまりに異様で、本当にこんなことがあったのか、誇張しすぎなのではないか、少なくとも原作でも本当にこのようなことが描かれていたのだろうか、誇張であってほしい、とさえ思った。
テーマになっている「残酷でグロテスクなもの」というのは、人間の肉を食うことである。
戦争で飢餓の極限に達したら人肉を食うこともあり得るだろうとは思うし、実際にそういう話を聞いたこともある。
だがそれはあくまでもほかに食うものがないから仕方なく、であって、そもそも人肉など食べたいとも思わないのが人間である。と、思う。
しかしこの映画では、まるで人肉を食うことが禁断の果実であるかのように描かれる。
ラストでは、戦地で奇妙な主従関係をもった若い兵士がその「主人」を殺してすぐに肉を食らうという壮絶なシーンが描かれる。
その食い方は、ライオンがシマウマを襲って食うような食い方だ。
いくら戦争時に人肉食があったとしても、そんな風には食わなかったのではないかと思う。
そして、戦地から戻った主人公が、人肉食に魅せられてしまったことを示唆するシーンで映画は終わる。
やっぱり塚本晋也はちょっとイカれてるなと思った。
上映後のトークショーで実物を見たが、気さくでユーモアもあるかわいいおっさんだったが。