谷崎潤一郎
この随筆は名作だと頭の中にあったのだが、内容をまったくと言っていいほど覚えていなかった。
読んでみると、忘れていたというより、明らかに読んでいない。
厠の話が出てくるが、こんな話を読んでいたら絶対に忘れないはずだ。
陰影礼賛は、たしか高校生の国語の授業で、一部をコピーしたものを読んだだけだと思う。
その一部だけを読んで感心はしたのだが、全部は読んでいなかった。
題名の通り陰影を、薄暗さの良さを書いているのだが、特にそれは建築について書かれていた。
これを読んだすぐ後に、たまたま出張で中国へ行った。
泊まったホテルは中国では最高級の立派なホテルなのだが、明かりが薄暗い。
自分の泊まる部屋へエレベーターであがって廊下を歩いているときに、
『あ、陰影礼賛だ。こういうことか』
と軽く驚いた。
廊下も暗いし、部屋に入って明かりを全部つけても物足りない感じがする。
外を歩いても、店などのあかりはついているのかわからないくらい微かだ。
もう慣れてしまったが、日本のほうが明るすぎるのだろう。