2008/04/21

絵本の思い出


08/04/21(Mon) 19:25

「きみとぼく」という絵本のことを、ふとした時に思い出す。我が家には、両親の教育方針のためだったのだろうが、絵本がたくさんあった。本を読むことは強制されはしなかったがとてもよいことだとされていて、本を読んでいるとほめられ、その本について話をするとよく話を聞いてくれた。本を投げたりぞんざいに扱うと怒られた。また、幼稚園でも毎週だか毎月だか土曜日に、絵本が配られた。それが非常に楽しみだった。私はおとなしくて友達もほとんどいないような子供で、家の中で絵本を読んでいることが多かった。「きみとぼく」はその中でも印象に残っている一冊である。ストーリーがおもしろかったとか、こころに残るセリフなどがあったわけではない。ストーリーもセリフもほとんど覚えていないが、その本のかもし出していた世界、多くは絵によっていたと思うが、友達がいなくて内気なサイと小鳥との恋愛のような交流が、今思い出してもうっとりするような静かな暖かい本であったのを、ぼんやりと覚えている。あらためてこの絵本について調べてみた。作者は今江祥智、絵は長新太である。二人ともたくさんの絵本を書いていて、それらも何冊か読んでいるはずであるが、この作品の印象はずばぬけている。1970年の作品である。私は2歳、今江氏は38歳で今の私と同じくらいのときである。ドンくさくてのろまでみんなに馬鹿にされて孤独なサイ。今でもそれに近いものがあるが、子供の頃の私はさらに酷かった。しかし、実はこの本を読んだ子供の頃にはそれほど感動もしなかったし別にどうってことない話だと思っていた。しかし、30年以上たった今でもまだその世界だけは印象に残っているということは、確実に自分の心には刻まれていて、自分を支えていたのである。




あともう一冊、強い印象の残っている本がある。これは挿絵はあったが絵本ではなく、確か小学1、2年くらい向けの本だった。陸海空を走ることのできる車を運転する話である。これは文学的な感動ではなく、当時はやっていたマンガやスーパーカーなどの世界にあこがれるのと同じような興味から読んでいた。タイトルも作者もすっかり忘れていたがキーワードで検索して「みつやくんのマーク X」であることがわかった。表紙の絵がカッコいい。これは子供が夢中になるのも無理はない。文が渡辺茂男、絵がエム ナマエという人の作品だった。渡辺氏は「しょうぼうじどうしゃじぷた」も書いている人だ。この本もよく覚えている。「もりのへなそうる」もこの人だったのか。2006年に亡くなっていた。「へなそうる」は変な題名なので覚えているが、中身は全く覚えていない。ちょっと狙いすぎな雰囲気を子供ながらに感じ取って読まなかったような記憶がある。「へなそうる」の絵を描いているひとが絵を描いた「いやいやえん」も出てきた。これも、赤い装丁も含めてよく覚えている。たしかわがままを言ってたらダメだよというような話だったと思う。あとは「ぐりとぐら」とか。傾向として、あまりお説教くさかったり波乱万丈があったりするような本よりも、たいしたストーリーはなくて絵がきれいで淡々とした本が好きだったようだ。あとは寺村輝夫の王さまシリーズ。これは高学年の頃でも読んでいて、高校か下手したら社会人になってから、図書館で探してやっぱりおもしれえやと笑いながら読んでいた記憶がある。

長さんは2005年、寺村さんは2006年に亡くなっていた。そしてエムナマエさんはなんと目が見えなくなっていた。1986年のことだから、「マークX」の時には見えていたのだ。しかし目が見えなくなっても今でも絵を描き続けているそうだ。

「マークX」は、実は実際に運転しているのではなくて、少年の空想なのである。模型を見て、自分が運転して空を飛ぶところを空想しているのである。だから、情景も透明で、抽象的で、静かで自由なのである。孤独でもある。子供のころは、そういう自由な無意味な空想をよくしていたものである。みんなそうだったはずだ。