それからしばらくして、彼が小説を書いていることを知って、図書館などでちょっと読んでみたらとても面白かったのだが、それはナンセンスでシュールなお笑いのような面白さで、まさか芥川賞をとることになるとは全く思わなかった。芥川賞をとってしまうと、少し遠い人になってしまったような気がした。しばらく前にもNHK教育テレビで中原中也の番組に出ていたが、立派な作家としてまじめに中原の事を語っているのを見た。
U氏のブログで彼がほめられていたので、これはやっぱり本格的に、ただおもしろいというだけでなく、一流の作家の作品として、読んでみる必要があると思って、上野駅の本屋で新潮文庫を買った。「夫婦茶碗」は、読んですぐ思い出したのだが、一度読んだことがある作品である。真顔でおもしろいことナンセンスなこと自虐的なことを言う、私の目指している文章である。
芥川賞をとって立派な作家先生になってしまったからそう思うだけかもしれないが、この作品はふざけているように装っているが、実は芸術と生活についての深い考察を語っているのではないかと、前回読んだときとは違う感想を持った。
おそらく彼がこの作品を書いたのは、今の私と同じか少し若いくらいの時のものである。語彙や発想が、やっぱり只者でない。