2022/04/23

「ホーリとカリーヌイチ」

 ツルゲーネフは父と子、初恋、ルーヂンを読んだことがあって、どれも印象に残っている。

よく考えてみると、私が読んだ小説や詩のなかでロシア人の作品の占めるウェイトはかなり多く、日本人に次ぐというか、ほとんど日本かロシアか、みたいになっている。

地下生活者の手記、カラマーゾフの兄弟、罪と罰、白痴、戦争と平和、クロイツェルソナタ、大尉の娘、オネーギン、どん底、など、外国の作品で心に残っているのはロシアばかりだ。

ロシア以外だと、サリンジャー、トーマス・マン、シェークスピア、ゲーテくらいだろうか。

猟人日記は今岩波文庫のラインナップにない。

たまに本屋に行くと岩波文庫の棚をながめるが猟人日記があったためしがない。

なので、amazonかヤフオクか忘れたが古本を買った。

今持っているのは1958年1刷、1998年15刷(上巻)、12刷(下巻)のものである。

けっこう前に買ったはずだ。

初めて買ったのは30代の頃だったと思うが、その時も中古だったのだが買ったら両方上巻だか下巻で読む気をなくした。

そして最近といっても数年前に買いなおした。

いつも、なんで猟人日記が(新品で)売っていないのかと不思議だった。

読んでもいないのだが名前はよく聞くし、不朽の名作のようなものだと思っている。

太宰治の斜陽に、主人公と女が猟人日記について話、主人公が「あれはちょっとうまいね」とかいうシーンがある。

初めて斜陽を読んだのは高校生の時だったが、その時からいつか猟人日記を読んでみようと思っていたが、もう30数年が経ってしまった。

最初の二三篇を読みかけたことがあるのだが、どうも頭に入ってこず、やめてしまった。

今回、なんとしても読んでやろうと思い、最初の「ホーリとカリーヌイチ」を読んだ。1回読んで、やっぱり何が言いたいのかよくわからない。何も頭にも心にも残らない。すぐにもう一度読んだ。ようやく情景がうっすらと頭の中に浮かんできた。食べ物を用意するところとか、納屋で寝るところとか。

ウィキペディアに、アレクサンドル2世が読んで農奴制廃止を決意したと書いてあるが、農奴制を描いてはいるが批判的に描いているとまでは言えないように感じた。

ドストエフスキーやトルストイの作品を読んでいても主人と召使みたいな関係はよく出てくる。古い映画を見てもでてくる。子供の頃に読んだ童話にも出てくる。私はそういうものを読んでも昔はそういうことがあったのだなと思うだけで農奴制という悪しきしきたりなどとは感じなかった。

今では会社員が正規社員と非正規社員に分かれて、実質奴隷のような状態で働かされているのを見て、奴隷という存在は社会に必要なのではないかと思ったりする。


最初の一文。

「ボルホフ郡からジーズドラ郡へ渡ったことのあるものは、オリョール県の人たちとカルーガ県の人たちの気質に、際立った相違のあることにきっと驚いたことであろう。」

今回読み直してみて、あらためてここで戸惑う。

ボルホフ郡とオリョール県、ジーズドラ郡とカルーガ県の関係は?

普通「郡」は「県」の中にある。オリョール県とカルーガ県の県境にあるのがボルホフ郡とジーズドラ郡で、ボルホフ郡からジーズドラ県へ「渡る」(この言い方も現代日本ではわかりにくいが川を渡るのだろうか?)ということは、オリョール県を出てカルーガ県へ入るということなのか。

ウィキペディアで調べるとそのようである。

オリョール州ボルホフ市、カルーガ州ジズドラ市、川沿いにある市である。


どこで見たか読んだかわからないのだが、山本周五郎の青べか物語や季節のない街は、猟人日記に影響されたものだという話を聞いたことがある。

2022/04/10

2022年4月9日 ゴロフキン対村田

 さいたまスーパーアリーナ。

開場は4時、最初の試合は5時からということで、

せっかくなので全部見ようと4時少し過ぎに駅に着いた。

トイレに行こうと思ったら長蛇の列。


あきらめてスーパーアリーナへ向かう。

The Whoのライブ以来だが、あれはたしか2008年だからもう14年も経つのかと感慨にふける。

人が多いがみんながスーパーアリーナへ行くわけでもあるまいと思っていたが会場につくとすでに大勢が会場入りしていた。


買ったチケットはアリーナのリングサイドB席。11万円。妻にはボクシングを見に行くとは言ったがこんな席のチケットを買ったことは内緒だ。

帝拳ジムの情報ではメインイベント以外に東洋太平洋とWBOのタイトルマッチがあるとのことだったが、4回戦、6回戦の試合もあり、さらにWBOタイトルマッチの後にもう一試合4回戦が行われた。


私の座った席は、リングから20列目くらいだろうか。下から見上げるような場所である。

こんな角度でボクシングを見るのは初めてだ。


もう30年前になるが、レパード玉熊が綾瀬にできたばかりの東京武道館でタイトルマッチをおこなったのを観たのだが、そのときもこんな位置だったろうか。


すべての試合をじっくり見た。テレビやyoutubeで見るのとは全然違う。

正直言って前の人の頭だったりロープなどが邪魔でちょっと見にくいのだが、

臨場感というか、迫力というか、そういうものは何にも代えがたい。


WBOタイトルマッチに勝った中谷潤人というボクサーを知らなかったのだが、まだ無敗ですばらしいボクサーで、有名らしい。


さて、ゴロフキンと村田の試合であるが、

まず、どうも村田の表情がさえない気がした。

リングの上にあった大きなディスプレイで見た会場入りする様子、控室の様子を見ても、なんだか気が沈んだような、よく言えば冷静で平然としているのだが、なんだかおびえたような、あきらめたような雰囲気さえ感じた。


いよいよ入場となって、会場は声を出すことが禁じられていたが沸いた。

村田はTシャツを着て入場してリングにあがるとシャツを脱いだのだが、

その体をみてなんだか痩せて肌の色が土気色のように見えた。

それは、その日おこなわれた5試合で見たどの選手にもないような不健康な色に見えた。


家に帰ってamazon primeの映像を見るとそんな風には見えないのだが、現地ではとにかく覇気がないというか、試合前なのに疲れているようで高ぶりも感じられなかった。


ゴロフキンは、やや年をとったなという感じはあるものの、オーラというか、みなぎるようなものが感じられた。


試合は序盤から村田が攻め、会場は沸いた。

ゴロフキンは下がりながら防戦一方のように見える。

2R終了後のインターバル時の様子は直接は見えにくかったのだが、

ディスプレイで見るとかなり疲労していて、まだ2Rが終わったばかりだというのに頭から水をかけられて髪の毛もグシャグシャになっていて、

あれ、もしかして負ける?

と思った。


ゴロフキン有利という評判だったが、私はカネロとの2回目の試合をyoutubeで観た印象と、その後それほど強い選手と戦っていないこと、ブランクが長いことなどからもしかして村田が勝つのでは?と思っていたが、

試合が始まるころにはゴロフキンが負けるわけはない、という風に思い始めていたのだが、やっぱり負けるかもしれないと思わせた。


村田は前に出るとともに、執拗にボディを打っていた。

しかしそのボディブローはほとんどトランクスのベルト部分にヒットしている。

ローブローじゃないかと思ったがレフリーは何も言わないしゴロフキンも抗議することもない。


会場はろくにヒットしてもいないのに村田が手を出してゴロフキンが下がるだけで歓声があがる。

だがゴロフキンは決して下がる一方にはならず、細かくパンチを入れ、かならず反撃してくる。

2R, 3Rは村田のラウンド、4Rも村田かなぁ、という感じだった。

たしか5Rだったと思うが、ついに村田のローブローが注意された。

(その前にも注意されたという情報があるが私が気づいたのはこの時が初めてだった)


そのあたりからボディブローがほとんど出なくなった。

そしてゴロフキンのパンチが当たる場面が増えてくる。


村田も被弾しながらも勇敢に前に出て反撃をするのだが、

明らかに疲労がたまっているのが分かる。鼻血も出ていたし

顔もカットまではいかないがあちこちすりむいている。

6Rか7R開始してすぐに、何かがピューンと飛んだ。村田のマウスピースだ。

そんなにもろに当たったという感じではなかったが、スパーンと打ち抜くようなパンチだ。

今はマウスピースが落ちるとすぐにレフェリーが止めて入れる。


これはヤバいなと思う。

(というか、自分の中ではゴロフキンがやっと実力を見せ始めたという安心感の方が強かった)

7, 8Rはロープに詰められて滅多打ちに近い状態となることもありストップされるのではと思った。

そして9Rついにダウン。試合終了。


twitterやyoutbueなどで試合の感想を見ると感動したという人が多かったが私は村田については果敢に立ち向かったことはすばらしいとは思うが、あまりいい状態ではなかったように見えた。


そもそも、今までの村田の試合について私はあまり評価していないというか、なんだか慎重に相手を選んで強い相手を避けてきたような、どこか別の世界で競技をしているような違和感というか物足りなさを感じていた。

おそらく彼自身、いつかはカネロやゴロフキンという「本物」と戦って見せたいという思いがあり、そしてとうとうそれが実現したわけだが、その結果はやはり世界チャンピオンと言ってもまた別格の存在であることが明らかになったという悲しさのようなものがあった。


会場はサーチライトのようなものがまぶしくて、ひさしのついた帽子を持ってくればよかったと思った。

またトイレが常時(もちろん試合がおこなわれていない時)行列ができているので、

今度このような機会があれば外ですましておこうと思った。

あと、場内は室温が低く、長袖シャツ一枚では少し寒いかなというくらいだった。リング上はライトが照っているからそんなに寒くはないのだろうが。


そしてリングサイドで見るというのは貴重な経験だったが、今度はやや上から全体が見下ろせるAとかBとかの席でいいかなと思う。