彼が何度も来日していたのは知っていたが、観たのは初めて。
特に好きなアーティストというわけではないが、好き嫌いは別にみとめざるを得ないような存在だった。
だから、彼のめぼしいアルバムはだいたい聴いていて、今回のライブでも知らない曲はほとんどなく、もう聞き古した聴きつくした感さえあるような曲ばかりだった。
土曜日の18:00から。
天気はあまりよくなくて、そろそろ出かけようかというときに強い雨が降った。と思ったらすぐやんで、駅で電車を待っていたら虹がかかっていた。
武道館の最寄り駅は地下鉄の九段下であるが、駅へも駅から武道館へもあまりアクセスがよくないので、市ヶ谷から歩いた。
会場に着いたのは開場時刻の5時ごろだったが、すでに大勢の人がいた。さすがに年齢層が高い。自分と同じかそれ以上の人たちばかり。服装、髪型、表情も、地味というか質素というか、穏やかな空気に満ちていた。
最近は荷物検査などが非常に厳しいのだが、「荷物は自分で見せてください」という貼り紙がしてあるだけで、チケットを見せ、ちいさい肩掛けかばんを持っていたが特に開けることもせず開けてくださいと言われることもなく、中に入れた。拳銃でさえ持ち込めただろう。
席は東の2階だった。ステージに向かって右30度くらいのところ。演者までの直線距離は50mくらいだろうか。
クラプトン以外の演者は、白人の左利きのギターが一人、黒人のベースが一人、黒人のキーボードが一人、白人のキーボードが一人、黒人のドラムが一人。誰も知ってる人はいなかったが、ベースはネイザン・イーストという有名な人らしくて、彼がボーカルをとる曲もあった。
あと、黒人の女性コーラスが二人いた。
ステージの上には大きなディスプレイが3枚くらい設置してあり、表情や手つきなどを見ることができる。ほとんどそっちを見ていたかもしれない。時々、せっかく生で観てるんだからもったいないとステージを観たりしていた。
前評判はネットでなんとなく見ていたのだが、思っていたよりずっとよかった。
そして、演奏を聴いて彼の姿を見ながら、エリック・クラプトンとはどういうミュージシャンなのか、と改めて考えた。
彼はまずギタリストであるが、シンガーでもある。ギターを弾きながら歌うミュージシャンはたくさんいるが、彼ほど「歌える」ギタリストは稀である。
そして、彼のギタープレイであるが、彼は主にブルースを演奏する。今回のライブでもロバート・ジョンソンなど、いい意味で「ただのブルース」を何曲か演奏していた。
私は少しギターを弾くが、彼のプレイを真似しようと思ったことは全くと言っていいほどない。観たり聴いたりしていて、うまいのだろうなとは思うが、すげぇ、とか、素晴らしい、とか、天才だな、とか思うこともない。
彼のギターソロはなんというのか、雑味やエグみみたいなものがなく、きめ細かく自然で無理がなく体に染みわたるようなものに感じる。
若いころはおそらくそれが退屈だと感じてあまり好きにはならなかったのだろう。