イマヌエル・スエデンボルグ 「結婚愛」

やっと読み終わった。なかなかの難物だった。もちろん結婚について書かれているのであるが、それがあまりにキリスト教にとって重要なものであるため、単に結婚とはこういうものだ、こうあるべきだ、という話にはとどまらない。「真の結婚愛とは何か」ということなら、多くの人がだいたい理想は描けるのではないだろうか。一人の相手を一生愛しぬき浮気をしない。スエデンボルグの言っていることも、それと大差はない。彼は特にひどく厳しいことを言っているわけではない。ただし、男と女の本性のような話については、もしそれを現在の日本で出版あるいは放送したらクレームが殺到するだろう。

この書は、哲学書ではない。物語でもない。なんというジャンルなのか、選別に困るが、報告書のようなものだ。彼は生きながらにして霊界に行った男である。それも、行ったことがある、などというものではなく、確か何十年間もの間、霊界とこの世を行ったり来たりして、霊界で見聞きしたことを書物に記録したのである。

そんな話は彼以外に聞いたことがない。丹波哲郎くらいか。でも丹波氏の言っていることはスウェーデンボルグとそっくりだし、名前も引用しているのでおそらく彼の影響を受けているのだろう。


イマヌエル・カントは、スウェーデンボルグの「霊界日記」を読んで、「こんなのデタラメだ。でもいちおうスジは通ってるね」という旨のことを述べたらしい。

私も同様である。彼のいう霊界のありよう、そこにあらわれる様々な人々、天使、信じられないほど美しいという男女など、そして彼がスパスパと結婚の状態や妾のこと愛人のこと娼婦のことなどを「こうだ!」と断定していくところにも、同意しかねるところがたくさんある。だが、おおむね言っていることにはスジが通っている。なんとなく、自分でも抱いている『人はこうあるべきだ』というもの、「常識」とかいうものに極めて近い。ただ、非常に倫理的に厳格であって、ここに書かれていることを読んで、「私の生き方、結婚のあり方は正しい」と喜べる人がどれ程いるだろうか?ほとんどの人が途中で怒り出すか、恥ずかしくなって読むに耐えないのではないだろうか?


私が本書を読むのに3週間もかかってしまったのも、そのように読むに耐えなくなってしまったからである。少しずつ、読んでいった。


先日読んだ「不安の概念」で期待したのはいわゆる「失楽園」というのがどういうことなのかということだったのだが、それに触れられてはいたが、結局聖書に書かれていること以上のことは何も言われていなかったが、スウェーデンボルグは「真相」を書いている。

引用しよう。

「楽園は、霊的には、理知であり、生命の木の実を食うことは、霊的には、主から理解し、知恵を得ることであり、善悪を知る知識の木の実を食うことは自己から理解し、賢明になることである。(353)」

ただ、私はこの説にも満足はしていない。もっともらしいが、本当にそれだけだろうか?と思う。



私がこの本を買った時は確か20代だった。買った当時はパラパラと読んだだけではあったが、なんとなく脅威というか敬意のようなものを抱いていた。

その後、私はあまり人には自慢できないような生活を送ってきた。くわしくは書けないが「私は天国へ行ける!」と胸を張って言えるような生活ではなかった。


若い頃は、私は世の中を憎んでいた。自然を美しいと思わなかった。食事も空腹だから食べるだけで、微妙な味わいなどを気にしなかった。

歳をとるにつれて、花がきれいだなとか、夕焼けがきれいだなとか思うようになった。食べ物も、食べることそのものが楽しいというか、おいしいものを食べることが快感であると感じるようになった。それは別に悪いことではないが、私は「堕落」のように思えてならない。

先日聖書を通読したときも、「黙示録」を読んでも何も感じなかった。腹立たしささえ感じるほどであった。初めて読んだころは、よくわからないなりに何かを感じていた。それが、今ではまったく反応しない。平たく言えば、「霊的な感覚がわからなくなった」という感じだ。本書にも、古代の人々は表象を何かの表象として理解していたがその能力が失われて表象そのものを崇拝するようになり偶像崇拝が生まれたということが書かれている。


でも、そんなのは私だけではないだろう。今まで生きてきて、「霊界」などというものを信じている人なんかほとんどいなかった。そんなことは話題にすらならない。「神」も同様で、否定する人はたくさんいたが、「俺は神を信じている」と言った人は一人か二人くらいしかいない。

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