岩波文庫。
ずいぶん前になるが、これを映画化したものを見たことがあって、ちょっと印象に残っていた。
いつか原作を読んでみようと思っていた。
作者はラーゲルクヴィストという、スウェーデン人だ。
全然どういう人かわからない。
今まで彼に関する話を聞いたこともない。ノーベル賞までとっているというのに。
バラバはイエスと一緒に十字架につけられていたが、慣例により罪を許された男だ。
そのときの話は福音書に書かれている。「イエスではなくバラバを許せ」というのは、
当時のユダヤ人たち、神を信じていた人たちが怒り交じりに主張したことだ。
もちろん、人々はその事に関してイエスやユダヤ人、またはピラトなどに注目した。
この小説は、誰もがどうでもいいと思っていた、バラバのその後を描いたものだ。
イエスの素性すらあやしいのだからバラバに関してはもっとあやしい。
でも、相当の悪人だったようだ。何人も人を殺して略奪を繰り返すような男だったらしい。
どう考えても、許されるべき人間ではなかった。
映画では、ローマで見世物として剣をもって戦う闘士という設定になっていたと思う。
彼は連戦連勝、不死身となるのである。
イエスの代わりに罪をゆるされて不死身となる、ということに感心したのを覚えている。
しかし、小説にはそういう話は出てこない。
許されたバラバはぼんやりとして、別に今までの悪行を悔いて劇的に改心するわけでもない。
むしろ、虚脱状態、いける屍、余生のような状態で生きている。
そして最後は、放火事件が起こり、それに加勢して死刑となる。