1993年
公開されたとき私はまだ中学生だった。武がラジオでソナチネが全然客が入らなくて打ち切りになった、と言っていたのを聞いた覚えがある。
私がソナチネを観たのはいつだったかよく覚えていないが、「その男」よりは先に観た。HANA-BIが公開される前だったかな。キッズリターンを観た後くらいだろうか。
ソナチネは武の映画の中でも評価が高く、武自身も思い入れがあるらしい。
映像は美しく、静かな雰囲気の中で淡々と描かれるショッキングなシーンも印象的ではあるが、私はこの映画があまり好きではない。
武の映画について「暴力」とか「バイオレンス」とか言われるのだが、それはほとんどが拳銃によるものである。
私は拳銃を打ち合ったり拳銃で自殺したりするシーンが好きではない。
実感がないし、一般の人間はまず拳銃を使用することはないし使用されているのを観ることすらまずない。
それこそ映画やドラマ、せいぜいがニュース映像くらいである。
映画なので、好きな世界を描き好き放題なストーリーにして、現実にはありえない世界をつくりあげてよく、そうすることが映画の醍醐味なのかもしれないが、やはりあまりに非現実的すぎるとついていけなくなる。
観るのは3回目か4回目かくらいだと思うが、今回一つ気になったことがあった。クレーンに吊るされた男を海に沈めたり引き上げたりするシーンがあるが、ロープでしばってクレーンに吊るした人間をあのように海中に下ろそうとしても、あんな風にずっぽりとは沈まないのではないか?
調べると「肺に空気をいっぱいに吸った状態なら浮く」ようだ。いっぱいに吸ってはいなくても生きている人間の肺には空気が入っているから、たぶん浮くか沈むかぎりぎりのところだと思う。
男の体重が70kgくらいだとして、70kgの肉の塊をクレーンで吊るして沈めたらどっぷり沈むだろうが、人間の体はそうならないと思う....
どうでもいいことだが、そんなことを考えてしまう。
ただ、武はそれをわかった上であえて撮ったのではないか、とも考えた。それどころか、本当はこんな風にならないけどそうなっても違和感がないような映像にして客をある意味「欺く」ような意図があったのかもしれないとさえ思った。
途中でいったん止めて、翌日残りを観たのだが、「あれ、武の役ってどういう役だっけ?やくざ?元やくざ?一般人?」とわからなくなった。
この映画はクールでうっとりするようなシーンはあるのだが、感動ということになるとほとんどない。芸術に道徳や善悪は関係ない、というのはわかる。私もそういうものを主張するものは嫌いである。
しかし、やはり映画というものには人間のドラマというか、人情というか、そういうものが欲しい。
先日Brotherを観て「なんでおもしろいと思ったのかわからない」みたいなことを書いたが、今回5本ほど武の映画を観て、涙が出たのはBrotherだけだった。
Brotherは多分技術的には他の作品に劣るものなのかもしれないが、私の心には響く何かがあった。だから、映画館で観たときに「最高傑作だ」とまで思ったのではないかと、「その男」やソナチネなどを見た後に、気づいた。