古本屋できれいな文庫本があったので買っておいたもの。
細雪はずっと前から読まねばならないと思っていたがなかなか読めなかった。
谷崎潤一郎の作品は、春琴抄、痴人の愛、鍵などを読んで、おもしろいなと思っていたが、細雪は読み始めるものの世界になかなか入っていけず、すぐに読むのをやめてしまっていた。
私が読んだ他の作品のように、この作品には劇的なことが起こらない。もういい年頃なのに独身の女性の縁談というのが一応話の核のようになっているが、それも見合いをするものの特に魅力的な相手でもなくなんとなく気乗りせずに破談になったりする。
それ以外には特になんということもない日常が淡々とつづられる。その中にはクスリとしてしまうようなエピソードもときどき挟まれるが、はっきり言ってしまえば退屈である。
谷崎潤一郎という人はどちらかというと浪漫派というか、劇的で過激な話を書く人というイメージがあったのだが、細雪はそうではなく、自然主義というか、リアリズムというか、現実的な描写に徹している感じだ。
登場人物の心理にもあまり触れない。登場人物はそれほど激しく悩んだり苦悩している様子もない。
上巻の最後では雪子の縁談と破談、それと同じころに起きた幸子の流産という、ちょっとした山場があって終わる。
なんとか「世界」が見えてきたので、中、下が楽しみになってきた。
ちなみに、冒頭の「こいさん、頼むわ」というセリフであるが、わたしはこれを何十回と読んでよくわからなかったのは、「こいさん」と呼ばれたのは「妙子」なのになんで「こいさん」なのかということだった。
少し話が進んだときに説明がある。
「『こいさん』とは『小娘(こいと)さん』の義で、大阪の家庭で末の娘を呼ぶのに用いる普通名詞であるが」