2013/03/17

西村賢太 「けがれなき酒のへど」

西村賢太は昭和42年生まれで、私とほぼ同い年である。

芥川賞をとったときに、中卒であるとか風俗がどうだとかいうことばかりがクローズアップされて、そんなことが売りの作家なんかと思っていたが、ほとぼりが冷めてyoutubeで彼が出演したテレビ番組を見ていてその人柄に魅力を感じて、読んでみたいなと思った。

「苦役列車」は見つからなかったが、新潮文庫のコーナーに何冊か彼の作品があった。「暗渠の宿」というタイトルのついた文庫の中に収められていたのが、「けがれなき酒のへど」である。

これは、風俗では満足できない男が本物の恋愛にあこがれそれを実現しかけて裏切られる話であるが、これで終わりかな、と思わせたところで彼が傾倒している藤沢清造という作家についての話に切り替わる。

この文庫は駅の売店で買って電車の中で読み、自宅の最寄り駅に着いたが読み終わらないので居酒屋へ入って読み終えた。

人目もはばからずにニ、三度噴出した。

俗に言う「ダメ人間」を描いている。

ダメ人間を描いたと言えば、私が知っているのは太宰治と町田康であるが、なぜか彼の文体には三島由紀夫的なものを感じた。

私の乏しい読書体験の中から、今回初めて読んだ西村賢太の文体と似ている作家を探すと、三島由紀夫になる。


主人公が風俗嬢に対して抱く勝手な幻想と、それを裏切る女、その描写は思い込みが激しく、自分が勝手に理想化してそれにそぐわない現実を罵倒する感じが三島に似ている。

それが本気なのかふざけているのかわからないところも似ている。


ダメ人間を描いているという点で似ていそうな町田康とは、まったく異なる。

町田の方が、さらっとしている。現代的である。一般受けするだろう。

西村の描き方は、自虐的とか露悪的とかいうのではなく、なんというか、超現実的な感じがする。

主人公をだます風俗嬢像は、非現実的で、想像の産物感が強い。



そういう、想像力過剰なところが、三島由紀夫っぽいと感じるところである。