岩波文庫の「伝奇集」におさめられている。
プロローグと八つの短い話で、映画のオムニバスのような形式である。
ボルヘスを読んだのは初めてだ。
twitterでよく目にする名前なので、読んでおこうとおもっていた。
最近流行っているのだろうか?
一年ほど前に一度買ってあったのだがパラパラとながめただけで読めずにブックオフへ売ってしまった。
先日ポオの詩論を買いにいったときにたまたま目に入ったのでついでに買った。
今までに読んだことのない作風である。
「メタ小説」とでもいうのだろうか。
ときどき、ハっとさせられるようなフレーズが出てくることはあるが、なんともとらえどころのない話である。
登場する人名や作品名は架空のものが含まれているようだが、実在するものも混じっている。
ときどき、全く意味がわからないような文も出てくる。誤訳じゃないか?と思うところがある。
それは翻訳ものにはつきものなので気にせずに読み進む。
ヴァレリーのムッシュー・テストについての言及が何度かあった。
あれと似た印象を受けるところもあった。
読み終えるまで戸惑い続けた。
私は小説でも映画でも、それらが描くものは架空であり想像されたものであるということを前提にして読んだり観たりする。
そのときには、それは架空ではあっても、当然本当に存在しているものとしてのめりこもうとする。
それはすべての芸術の大前提である。
ところが、本作品は、架空の登場人物が架空の存在を語っている。架空が存在してリアリティを得るのも大変なのに、さらにその中で架空の世界が登場するとわたしの想像力が追いつかない。
「伝奇集」というタイトルから予想していたのとは違うものであった。もっとストレートに不思議な話、奇妙な出来事が書かれていると思ったのだが、百科事典のなかの一項目についての話だったり、
架空と思われる作家や作品について語られたりしている。
一度読んだだけではよくわからない作品であった。