2012/11/25

「戦争と平和」 (9) 第三巻 第一編

戦争再開。第三巻の最初に、トルストイの戦争観が書かれている。戦争というものはたとえばナポレオンとかアレクサンドル皇帝などの思想や判断などによって起こるものではないというようなことだ。この小説には数え切れないくらいの人物が登場し、戦場の場面もあれば舞踏会や狩猟やお祭りの仮装大会や、結婚、不倫、裏切りなどもつづられる。ナポレオンは誰もが知っている憎き人物なのだが、彼も当然一人の人間であって、もちろん彼だけが歴史を動かしていたのではないのである。われわれは過去の歴史を振り返ったときにまるでシーザーとかジンギスカンとかナポレオンとか、ヒトラー、スターリンなどの人物達が、彼らだけが歴史をつづってきたかのように思いがちだが、当然、その時代にはピエールとかアンドレイ公爵とか、ニコライ・ロストフのような人物がいて、結婚したり、妻に失望したり、死別したり、バクチで大損したり、恋をしたりしていたのである。小説を読んでいれば、むしろナポレオンや戦争などよりもそちらの方がよっぽど大事で、感動的でもあるのである。しかしまた、戦争というものが避けようのないもの、ほとんど宿命のようであること、それに身を捧げること、それについても安易におろかなことだと片付けることもできないのである。